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It reads Chinese writing/漢文に親しもう/前田慶次郎の道中日記も読める

前田慶次の筆
米沢に「前田慶次道中日記」が伝えられている。
慶長5年関ヶ原合戦で敗者となった上杉家は、徳川家康の戦後処理により会津120万石から米沢30万石へ減封された。主人である上杉景勝の待つ米沢へ向かい、慶長6年(1601)10月24日伏見を発った前田慶次郎は、11月19日米沢到着まで26日間のできごとや感じたことを自由奔放なタッチでつづっています。
下記の文は、わが故郷信州のある寒村を通ったときの一節ですが、このように随所に漢文がみられるのが特徴です。
ちょっと基礎を知っていればスラスラ読めてしまう漢文。ここでは中国の詩文を参考にして基礎を学びましょう。

前田慶次道中日記より

四 下ノスワヨリ和田ニ 五里 和田ヨリ長クボニ 二里半 長クボヨリ望月ニ 一里半 以上十里

和田峠ハこゆれども、みちハまだ長くぼ也

漸あしだに付バ、もとみしにかハりて、あれはてたるさまなり、
広 野 人 希ニシテ尚 禽 獣 不
田 村 烟 絶テハ鶏 犬クコト鳴 声
こその里にと〃まるべからずとて、野経の露に袖をひたし、もち付の町ニ付、
テハけいノあつものニ風 味 満

現代語訳:
四日 下諏訪より和田峠に五里 和田より長久保に二里半 長久保より望月に二里半 以上十里

和田峠は越えたけれども道中はまだ長くてその名も長久保である。
ようやく芦田に着いたところ、前にみたときと変わって荒れ果てた様子だ。
広野にはひとを見かけることは希だが、それでも野に棲む鳥や獣が旅人の列を乱すことはない。
田園の村では、無人で炊事の烟もあがらぬようになっては、ひとの飼う鶏や犬の鳴き声も全然聞かれない。

明日[芦田]←ここんとこシャレねのはずが荒れて昨夜(こぞ)になってしまったようなこんな里には留まることはできないといって、野中の小径の露に袖をぬらし、望月の町に着く。
あつあつの鮭汁にありついて、その味が歯にも頬にもいっぱいに拡がった。

となり、下線の部分が漢文です。

1.返り点
漢文は中国の構造なので、日本語の語序に合わせなければならない。
訓読みの際には単語の位置を並べ替える必要が生じ、そのために用いられる記号を「返り点」とゆう。
@.「レ点」-------すぐ上の一字に返る。
テハけいノあつものニ風 味 満
字の部分です。
例として、
少 年 易学 難
少年老い易く学成り難し
A.「一二三点」-------何字か隔てて上へ返る。
テハけいノあつものニ風 味 満
赤字の部分です。
例として、
清 香
花に清香あり月に陰有り
B.「上中下点」-------「レ点」や「一二三点」を用いても足りない場合。(めったにない)
珍しいので例:
ツテ西 湖セント西子
西湖を把(と)って西子に比(ひ)せんと欲す
※一般には「レ」点と「一二三点」との併用が多い。
※さらに不足の場合は、「甲乙丙点」や「天地人点」を併用する場合もあるが、こてこての漢文にしかない。

2.送り仮名
原則として(縦書きの場合)漢字の右下に記したカナのこと。
カタカナを使いひらがなの「ふりがな」と区別する。
テハけいあつもの風 味 満
字の部分です。

@.活用語は活用する部分から送る。
堂々タリ/etc

A.副詞・接続詞は最後の一字を送る。(原則として)
/etc

B.意味合いから、助動詞的なものを付けた方がいい場合。
下線の部分。
天命ナリへんセラル/etc

C.必要な助詞を補佐する。
下線の部分。

3.再読漢字
漢文では日本語で訓読みできない特殊文字がある。
未(いまだ○○○ず)/将(まさに○○○す)/当・応(まさに○○○べし)/須(すべからく○○○べし)/etc
例として、
文 章 之 無 窮ナルカ
いまだ文章の無窮なるにしかず
ンデ勉 励
時に及んでまさに勉励すべし
書き下(くだ)し文---読み下し文ともいう---
訓読した文章をそのまま仮名まじり文としたもので、原則として読んだ通りに書けばよい。
1.訓読み文は、特にことわりがない限り歴史的なかなづかいに基づく。

2.文語文でふつうにひらがなにしている助動詞や助詞は、ひらがなにした方がよい。
下線の部分。
千 里
千里の行

4.では、漢詩を解釈してみよう
「春暁」しゅんぎょう/孟浩然(もうこうねん)

春 眠 不 春眠(しゅんみん)暁(あかつき)を覚(おぼ)えず
処 処 聞啼 鳥 処処(しょしょ)啼鳥(ていちょう)を聞(き)く
夜 来 風 雨 夜来(やらい)風雨(ふうう)の声(こえ)
花 落ツルコト多 少 花落(はなお)つること知(し)る多少(たしょう)
現代語訳:
春の明け方の眠りは心地よく、いつ夜があけたかも気がつかない。
ふと目覚めると、もうあちこちに小鳥のさえずりが聞こえる。
思えば昨夜のはげしい雨と風の音。
いったい夜の間に、どのくらい花が散ってしまったことだろうか。

「月下獨酌」げっかどくしゃく/李白(りはく)

花 間 一 壷 花間(かかん)一壷(いっこ)の酒(さけ)
ミテ相 親シムモノ 独(ひと)り酌(く)みて相親(あいした)しむもの無(な)し
ゲテ明 月 杯(さかづき)を挙(あ)げて明月(めいげつ)を迎(むか)へ
シテ三 人 影(かげ)に対(たい)して三人(さんにん)と成(な)る
月 既 月(つき)既(すで)に飲(いん)を解(かい)せず
影 徒ラニ 影(かげ)徒(いたづ)らに我(わ)が身(み)に随(したが)う
ラクナッテ 暫(しばら)く月(つき)と影(かげ)とを伴(とも)なって
行 楽 須ラク 行楽(こうらく)須(すべか)らく春(はる)に及(およ)ぶべし
我 歌ヘバ月 徘 徊 我(われ)歌(うた)ヘば月(つき)徘徊し
我 舞ヘバ影 零 乱 我(われ)舞(ま)えば影(かげ)零乱(れいらん)す
醒 時 同交 歓 醒時(せいじ)同(とも)に交歓(こうかん)し
酔 後 各々 分 散 酔後(すいご)各々(おのおの)分散(ぶんさん)す
無 情 永(なが)く無情(むじょう)の遊(ゆう)を結(むす)び
相 期ナル雲 漢 相期(あひき)す遥(はるか)なる雲漢(うんかん)に
現代語訳:
春の夜、花のもとで、壺に満ちた酒をのむ。
けれど独り酒を酌むばかりで、ともに飲みかつ語るべき友人もいない。
杯を高くあげて明月を招きよせ、自分の影と向きあうと三人の仲間になった。
しかし月は、もとより飲酒の楽しみを理解しない。
影はただ、わたしに随って動くばかりだ。
ままよ暫くは、月と影とを相手として、春のすぎぬ間にその楽しみをきわめよう。
わたしが歌えば、月は夜空をめぐり、わたしが舞えば、影は地上に入り乱れる。
醒めているうちは、ともに歓び楽しみあっていても、酔いが深くまわったあとは、それぞれ散々になってしまう。
けれどもこうして、人間感情の煩わしさを越えた交わりを末永く結んだうえは、いつかあの遠い天の川で、三人はきっと再会することになるだろう。

以上はほんの基礎です。
慣れなので数多くの漢文や漢詩を鑑賞してみましょう。


−参考−
有精堂「漢詩の解釈と鑑賞」/私立米沢図書館「前田慶次道中日記」

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